トイベースを始める前、私は別の法人で、放課後に子どもたちが通ってくる施設で働いていました。そこに、ビー玉が転がっていく仕掛けを作るのが好きな子がいました。
たくさん作るうちに、気がつくと、ほかの子が遊ぶはずの場所まで占領していました。
別のスタッフが声をかけます。「みんなも遊んでるんだから、もっとあっちの方でやろうね」
この言葉に悪気はありません。ほかの子の遊ぶ場所がなくなるのは事実ですし、誰かがつまずくかもしれない。子どもが困らないようにという気持ちから出たものです。私はそのスタッフを止めませんでしたし、注意もしませんでした。人の行動を変えるのは難しいと思っていたからです。
代わりに、自分がその子といるときは、好きなようにやらせていました。
まわりの子が寄ってくることもありました。「すごいね。私たちも入れて」。友達に壊されて喧嘩になった日もあります。そういうやりとりも、止めずに受け止めるものだと思っています。
怪我をすることや失敗することそのものが、子どもには大事な機会だと思っています。痛い思いをしたから次は気をつけようと思い、うまくいかなかったからやり方を変えてみる。大人が先に答えを出すと、子どもはその順番を通らずに済んでしまいます。言われ続けた子は、大人に言われたとおりにやろうとするようになる。私はそう見ています。
11月に練馬で開くフリースクール トイベースを、私たちは、子どもが自分で決めたことを最後までやってみられる場所にするつもりです。名前の「トイ」は、問いと、英語のtoy、つまり遊びの両方です。「ベース」は、出かけていく秘密基地であり、帰ってこられる安全基地でもあります。
大人の時計で、子どもの集中を区切ることはしません。朝は、今日やってみたいことを持ち寄るところから始めます。誰が何を言い出すのか、それがどれだけ続くのかは、その日になってみないと分かりません。ひとりが床いっぱいに何かを広げ始める日も、たぶんあります。
ただ、迷っていることがあります。
保護者の多くが、子どもには普通の小学校に通ってほしいと考えています。周りの目が気になること、学力が落ちないかという不安。どちらも実際にあることで、私はそれを否定しません。その不安を抱えたままお子さんを預けてくださる方がいるとしたら、私たちは重いものを預かることになります。
正直に書けば、「ここに来れば学力が上がります」「社会性が身につきます」といった、大人が安心するための分かりやすい成果を、あらかじめお約束することはできません。
自分で問いを立てて、自分の力で解いていく。その力を育むために必要なのは、大人が用意した正解を渡すことではなく、子どもが自分で決めたことを最後までやり切る「時間と余白」だと信じているからです。
だからこそ、ひとつだけ強く決めていることがあります。
それは、床いっぱいに伸びていく仕掛けを、大人の都合で片づけさせずにいられる場所にすることです。目の前で誰かの遊び場が狭くなっていくとき、大人はどこまで待てるのか。私たちはその覚悟を持って、この場所を開きます。

